物理基礎の電気分野,いよいよ最終回です! 最後は電力と電力量についてお話したいと思います。
電流のする仕事とは
教科書や物理を解説しているサイトを見ると,「電力量とは,電流がする仕事である」と書かれています。
もちろん正しいのですが,これだけの説明で高校生が本当に理解できてるのかなーって考えると,答えはNOではないでしょうか?
初学者に「電流がする仕事」では言葉足らずなので,もう少し詳しく見てみましょう。ここで出てくる仕事は力学で出てきた仕事と同じ概念です。
「仕事をする=力を加えて物体を動かす」ことでしたが,もうひとつ大事なポイントがありました。 それは,「エネルギーの変化分」としての仕事です。
簡単におさらいしましょう。 100Jの位置エネルギーをもつ物体が落下して,位置エネルギーが20Jになったとします。 減った分(80J)はどうなるかというと,物体の運動エネルギーになるのでした。
この現象を詳しく見てみると,
重力による位置エネルギーが減少
↓
減少した分,重力が物体に仕事をする
↓
仕事をされた分,物体の運動エネルギーが増える
という流れになります。 位置エネルギーから運動エネルギーに変換されるとき,仕事がパイプ役になっているということを思い出してください。 電流がする仕事もそれと同じように理解できます。
というのも,オームの法則のところでやった通り,「電流が抵抗を通る」という現象は,「電圧が高い方から低い方へ落下する」ことと同じだからです!!
忘れている人はこちらの記事へ ↓
電圧の記事では,「電圧とは電気の世界における高さ」と表現しましたが,より正確に表現すると,「電圧とは電気の世界での位置エネルギー」です。
電池の正極側 → 位置エネルギーが大きい(=高い)
電池の負極側 → 位置エネルギーが小さい(=低い)
という具合です。
電流は必ず正極から負極に向かって流れるので,電流が抵抗を流れると,電気の位置エネルギーは減ることになります!!
先ほどの物体の落下の例と比較しながら考えましょう。 物体の落下では,減った位置エネルギーの分だけ物体に仕事をしていました。 電気の世界でも当然同じことが起こります。
電気の位置エネルギーが減った分,仕事が発生します! これが,電流のする仕事の正体です!!
電流のする仕事とジュール熱
しかし電流は何に対して仕事をするのでしょうか?
この答えは実は前回すでにやっています。 コレ ↓ です!!
(※前回用いたものと同じ図)
電流(多数の自由電子の流れ)はこの図のように,抵抗を構成する陽イオンに対して仕事をします!
しかし金属中の陽イオンは自由に動けないので,その場で振動(熱運動)をするのでした。 ここまでの話をまとめると,
電流が抵抗を流れる(電圧が高い方から低い方へ)
↓
電気の位置エネルギーが減少
↓
減少した分,電流が抵抗の陽イオンに仕事をする
↓
仕事をされた分,熱運動のエネルギーが増える
↓
ジュール熱が発生する
という流れになります!!
電力量の式
話を整理しましょう。 電力量とは電流がする仕事のことで,これがジュール熱と関係していることが分かりました。
ここで大事なポイント。 物体が落下するときは重力がした仕事の分だけ運動エネルギーが増加します。
電気の場合もこれと同じで,電流がした仕事の分だけ熱運動のエネルギーが増加します。
つまり, 電力量は発生したジュール熱と完全に等しくなります!
「仕事が熱となって消費される」という意味で,電力量のことを消費電力量とも呼びます。
“消費”がついてもつかなくても同じ意味なのであまり気にしなくて大丈夫です(笑)
電力の式
電力量が電流のする仕事ならば,電流のする「仕事率」の概念もあります。 それが電力です! 消費電力とも呼ばれます。 電力と電力量,名前がとても似ていますが,別の概念ですので注意しましょう(以前やった電気量とも名前が似ていますね…)。
電力量は仕事なので単位は J (ジュール),電力は仕事率なので単位は W(ワット) です。
簡単な問題をやってみましょう。
【問】
100Wの電球を10秒間つけたときの消費電力量はいくらか。 また,この電球に流れる電流は何Aか。
(ヒント:家庭用コンセントの電圧は100V)
答えを見る前にまずは自分で計算してみましょう。
【解答】
100Wの電球とは,1秒間で100Jの電力量を消費するという意味になります。
なので,この電球を10秒間つけていたら100W×10sで,答えは1000Jです。
次に,電力の式 P=IV に値を代入すると,100W =I×100V より,答えは I=1A です。
家電製品のラベルには消費電力量ではなく,消費電力が記載されています。 いまの問題をマスターしておけば,ワット数から各家電製品がどれぐらいの電力量を消費するのか,また,どれぐらいの電流が必要なのかが自分で計算できて便利です!!
(消費電力量の増加は電気料金の増加に,使用電流の増加はブレーカーが落ちるかどうかに関係しています)
今回のまとめノート
時間に余裕がある人は,ぜひ問題演習にもチャレンジしてみてください! より一層理解が深まります。
次回予告
今回で物理基礎の電気分野は終了です。 文系の人はここでおしまいかな?
理系の人(もちろん興味があれば誰でもOK!)はこのあと,基礎じゃない方の物理に突入します。 当然物理基礎よりも難しい内容になります。
また,力学の知識を必要とするものもありますので,物理基礎のすべての分野(補講も含めて)を一通り終えてから進んでください。