物理の道標

物理量と単位

答えに単位を付け忘れて減点…  そんな経験は誰にでもあると思います。

「単位を制するものは物理を制す!」と断言する人もいるほど,単位というものは非常に重要なものですが,イマイチ理解しきれていない人も多いのでは?

そんなわけで今回のテーマは,意外に奥が深い単位の話。

物理量について

突然ですが問題。

答えは後ほど!

ところで,「Aさんの身長は,Bさんの身長よりも大きい」と,「Aさんの身長は170cm,Bさんの身長は163cm」,どちらの表現が優れていると思いますか?

最初の表現では,2人の間にどれぐらい差があるのかがわからないけれど,数字を使えば一目瞭然。 また,CさんやDさんといった他の人物が登場しても,数値化していれば比較が容易。 というわけで,明らかに数字を使った表現のほうが優れています。

そんなわけで,物理ではあらゆる量(力の大きさやエネルギー,温度,電流など)を数値化して表すのが基本。 この「数値化された量」のことを物理量というのですが,数字だけ書いても何の数字かわからないことが多いので,物理量は単位もつけて表します。

ちなみに「単位をつける」とよく言いますが,ただ付け加えているのではなく実際にはかけ算です。

例えば身長170cmというのは,170(数値)× 1cm(単位)のこと。かけ算の記号を省略して170cm。
つまり,その人の身長が「1cmの170倍」ということを意味します。 当たり前だけどめちゃくちゃ大事。

ただし,この表現は具体的な数値がわからなければ使えません。 わからない場合は物理量を文字で置くことになります。

「Aさんの身長はxである。測ってみたらx=170cmだった。」みたいな。

以上のことを踏まえると,冒頭で出題した問題の答えはこうなります。



単位の接頭辞

長さの単位はmですが,小さいものを測るときはmmやcm,道のりなどを測るときはkmのほうが便利だったりします。

1mmを0.001mと書いたり,20kmを20000mと書いたりしても別に間違いではありませんが,数字があまりにも小さかったり大きかったりすると,スケールがつかみにくいし,読み間違いや書き間違いも起こりそうです。

そこで我々は無意識(?)のうちに,mm,cm,kmなど,測るものに合った単位を使い分けており,メートルの前についているm(ミリ),c(センチ),k(キロ)のことを接頭辞といいます。

さて,単位についてときどきこんな会話が繰り広げられます。

先生「1kmは何m?」

生徒「1000mです。」

先生「じゃあ,1kgは何g?」

生徒「忘れました…」

これ,よくあるやりとりですが,接頭辞の概念がわかっていないとこんなふうになってしまいます。

さっきはメートルの例を出しましたが,接頭辞は他のどの単位につけてもOK。
そして,どの単位についても意味は変わりません!

接頭辞「k(キロ)」は1000という意味。 だから,1kmが1000mなら,1kgが1000gなのは当たり前!!
「1kmは1000m」,「1kgは1000g」と1個1個丸暗記するのではなく,「キロは1000」と覚えておけばそれで十分。

そんなわけで,よく使う接頭辞についてまとめておきましょう!

M(メガ)は100万という意味なので,安易に「メガ盛り」などと名乗らないで欲しい。

接頭辞と単位の組み合わせによっては聞いたことがない単位ができあがりますが,使ってはいけないというルールはないので気にしないでください。 例えば1000000Aを1MA(メガアンペア),0.01gを1cg(センチグラム)と書いても,全然OK。

まぁ,聞いたことないけどな!

組立単位

長さはm,質量はg,時間はs(秒),電流はA,圧力はPa,力はN,…単位はたくさんありますが,すべての物理量にオリジナルの単位がつけられているわけではありません。

例えば速さ。 速さの単位はm/sを用いますが,これは長さの単位mと,時間の単位sを使って作られています。 このように他の単位を組み合わせてつくられた単位のことを組立単位(くみたてたんい)と呼びます。

一見するとオリジナルの単位に見えるけど,実は組立単位でした!っていうパターンもけっこう多い。 簡単なところだと圧力の単位Paなんかがそう。

あとは意外かもしれませんが,力の単位Nも組立単位で表せます。

理科で習う単位は「国際単位系(SI単位系)」というルールに基づいたものですが,いま見たPaやNのように,ほとんどすべての単位は組立単位として表せます!

すると当然,「じゃあ,組立単位として表せない単位(基本単位という)は何があるのさ?」という疑問が浮かびます。

もったいぶっても仕方ないので答えを言ってしまうと,基本単位はわずか7種類のみです。

これ以外の単位はすべて組立単位。 たった7種類の組み合わせでいろんな物理量が表せるってすごくないですか!


次元解析

組立単位を基本単位で表して,出てきた基本単位の次数を調べることを次元解析といいます。

言葉で説明するよりも見てもらったほうが早いので,実際にやってみます。 さっき出てきた圧力を次元解析してみましょう!

このように次元解析によって物理量の次元が得られますが,ここに物理を深く理解するポイントが隠されています。

そのポイントとは,

① 次元が異なる量どうしでかけ算と割り算はできるが,足し算と引き算はできない。

② 計算において,両辺の次元は必ず一致する。

という2点です。

まず①。 算数でも数学でも理科でも何でもいいですが,数値が2つある問題文を読んで,「え?これって足すの?それともかけるの?」って周りに聞いてまわる人,クラスに1人はいませんでしたか?(苦笑)

そういう人は,このポイント①がわかっていません。 次元がちがう量どうしはそもそも足せないのです!!

…というと,「え?そうなの?初めて聞いた!」という人がいますが,そんなのは言われなくても当たり前。

だって初対面の人に「私の年齢は20歳で,身長は170cmで,体重は60kg。合計で250です!」って自己紹介されたらどう思いますか?

「何でそれ足したんや!!」って思うでしょ?笑

そう,年齢と身長と体重は単位がちがうんだから足せません。

別の例として,「体重60kgの人と80kgの人がいます。合計で140kgです。」はどうでしょう?

これは問題ないですよね? 足し算をしてもいいのは,このように単位が同じときだけ。

かけ算や割り算はどうかというと,こちらは「速さ[m/s]= 距離[m]÷時間[s]」のように,単位が異なっていても可能です。

このポイントは物理の教員にとっては当たり前すぎるのか,授業ではあまり強調されていないように思いますが,しっかり理解しておくべきだと思います。

次に②ですが,力学に登場する公式で確かめてみましょう。

イコールでつながっている以上,同じになるのは当たり前なのですが,このことを知っておくと例えばこんな問題も解けちゃいます。

水面を進む波の速さの公式なんて教科書に書いてないのに,次元解析を使えば答えが選べます。 同じやり方で,マークシート問題で答えの選択肢を減らすことも可能。

もしも「距離を求めよ」という問題で,次元が長さになっていない選択肢があったら,それは完全にダミーの選択肢。

ね,便利でしょ?

無次元量

冒頭で「物理量は数値 × 単位で表される」と書きましたが,こんな例もあります。

約分された結果,単位が1になってしまいました!

単位が1の物理量を無次元量と呼びます。 その名の通り,単位をもたないように見える(実際は1という単位をもつ)からです。

物理の学習を進めていけば何度も無次元量に遭遇しますが,無次元量はもっと身近にもあります。

それはモノの数え方

みかんが1個,2個,3個,…や,犬が1匹,2匹,3匹,…や,腕立て伏せを1回,2回,3回,…など,日本語は対象によって数えるときの単位がいっぱいあってめんどくさい(笑)ですが,これらは物理ではすべて無次元量と考えます。

つまり物理だったら,対象がみかんでも犬でも腕立て伏せの回数でも,何かを数えるときは単位をつけずに,とにかく1,2,3,…と数えればOK!
(※実際に物理で出てくる例としては,気体分子の個数とか,振動の回数とか。)

…というわけで今回の単位のお話,かなり長くなってしまいましたが,それだけ重要だということ。 時間に余裕があれば,演習問題を通じて理解を深めておきましょう。

【演習】物理量と単位物理量と単位について理解を深めよう!...

物理をやっている限り単位は常についてまわります。 早いうちに理解を深めて,仲良く付き合っていきましょう!

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