電車に乗って,動き出したと思ったら動いたのは向かいのホームの電車だった!なんて経験ありませんか?
そして走り出した電車。窓の外の移りゆく風景を見て,我々は「電車が走っている」と認識しますが,見たままを言えば「風景が動いている」の方が正しいような気もします。 今回はそんな「ものの見方」のお話。
「絶対的」なものの見方
風景が動く様子を見ているのに,「動いているのは自分のほう」と認識してしまうのは,「地面やそこにある草木,家は動かない」ということをみんな知っているからです。
だから「自分は止まっていて,動いているのは風景の方」なんて主張する人はいません。
運動する物体について考えるとき,人はこのように,止まっているところ(つまり地面)を基準して,ものを見ようとします。
どんな運動でも,とにかく地面を基準にする。 こういうものの見方を「絶対的」と言います。
「相対的」なものの見方
ここで国語のお勉強。「絶対的」の反意語を知っていますか?
答えは「相対的」です。 相対的とは「他のものを基準にして,それと比較すること」です。
たとえば,面積が◯㎡といえば,それは1㎡という単位による絶対的な面積の測り方で,面積は東京ドーム◯個分といえば,それは東京ドームを基準にして比較した相対的な面積の測り方です。
ものの見方にも,「絶対的な」ものの見方に対して,「相対的な」ものの見方というのもあります。
相対的なものの見方とは,「観測者を基準にしてものを見る」ことです。
ただ,これだけ聞くと,「観測者からものを見るのは当たり前じゃん?」と言われそうなので補足しておきましょう。
ここでいう「ものを見る」というのは,ただ見るだけでなく,見たものを「どう解釈するか」という意味です。
電車の窓から風景が動いて見えたとしましょう。 この現象を「自分の乗った電車が動いている」と解釈すれば,それは「止まっている地面から見れば,電車が動いている」という意味なので,これは絶対的なものの見方です。
一方,そのまま「外の風景が動いている」と解釈すれば,「自分から見て,外の風景が動いている」ということですから,相対的なものの見方になります。
もちろん事実として正しいのは前者です。 止まっている駅のホームから電車に乗り,加速して発車したのは電車の方であって,風景ではありません。 そんなの当たり前です。
でもここで言いたいのは,「動いたのは風景」というのは事実としては正しくないけれど,ものの見方としてはそれもアリ,ということ。
さて,止まっている人が動いているものを見るのは,なにも問題ありません。
相対的なものの見方が威力を発揮するのは,動いている人が動いているものを見るときです。
相対速度の求め方
自分が40km/hの車に乗っていて,その前を60km/hの車が走っているとしましょう。
向こうのほうが速いので,差はどんどん開きますが,自分から見て,相手の車はどれぐらいのスピードで遠ざかるように見えるでしょうか?
自分が止まっていれば,相手の車は60km/hで遠ざかって見えますが,いまは自分も40km/hで追いかけているので,その速さの差は20km/h。
これが相手の車が自分から遠ざかる速さになります。
このように,自分も相手も動いているときに,自分から見たときの相手の速度を「相対速度」と言います。
いまの計算のように,相対速度は,「相手の速度 ー 観測者の速度」で求められます。
速さではなく速度なので,向きに注意が必要です。
いまの例は,相手も自分も同じ方向に動いていたので,今度は逆方向を考えましょう。
自分が40km/hの車に乗っていて,60km/hの車が向こうから走ってくるとします。 その車とすれ違うとき,自分から見て,相手の車はどれぐらいの速度に見えるでしょうか?
自分の速度を+40km/hとすると,反対に向かって走っている相手の車の速度はー60km/hになります。 この速度を先ほどの式に代入すれば,相対速度は
ー60km/h ー(+40km/h)= ー100km/h,となります。
マイナスが付いているので,「自分が進んでいる向きとは反対方向に100km/h」と解釈すればいいですね!
自分が相手に向かっていくスピードの分だけ,相手が自分に向かってくるスピードがより速く見えるという当たり前の結果ですが,ちゃんと計算で求めることができました。
物体の運動を調べるときに,自分も動いている状態だと計算が複雑になりがちです。 そういうときは,「自分は止まっているんだ」と考えて,相対速度を考えるようにしましょう!
今回のまとめノート
先ほど「地面は動かない」と言いましたが,広い視点で見れば,地球は太陽の周りを公転しているので,地面だって動いています。
「地面にいる人は止まっている」と考えるのも,そういう意味では相対的なものの見方です。
地球にいれば地面は不動の基準になりうるけど,宇宙から見たらそうではない。 地面は特別でもなんでもないのです(だからこそ他の観測者を基準にしてもOK!)。
ところで,物理で「相対」と言ったら相対速度よりも,普通「アレ」を思い浮かべますよね?
そう,アインシュタインの相対性理論です! 相対性理論は高校物理のはるか先にありますが,言いたいことは実は相対速度と同じで,「この宇宙に特別な場所はなく,誰から見ても物理現象は同じ」ということです。
昔の人は,地球は宇宙の中心にある特別な場所だと考えていたけれど,実はそうではなかった。「宇宙に特別な場所なんてない」という事実が物理では「相対性」となって現れるのです。 うーん,深い。。。
さて,時間に余裕がある人は,ぜひ問題演習にもチャレンジしましょう!
