力学

質点と剛体

かつて落下の問題で,生徒からこんな質問を受けたことがあります。

…おや? この指摘は言われてみれば正しいような??

お詫びと訂正?

これまで物体の運動をいろいろと見てきましたが,「物体の大きさ」には言及してきませんでした。「ばねにつながれた小球が〜」という問題はあっても,「ばねにつながれた半径1cmの小球が〜」という問題はここまでひとつもありませんでしたよね?

それもそのはず。 高校物理を運動方程式や等加速度運動の公式,エネルギー保存則は,物体の大きさに関係なく成り立ちます。

そう,物体の大きさも空気抵抗や摩擦と同様,本質に影響を与えません。

大きくても小さくても結果は同じ…なのですが,大きい物体だと先ほどのように高さと落下距離が一致しない,なんて面倒なことが起こるので,物体をうんと小さくして考えます。

「うんと小さく」という言い方では生ぬるい。 無限に小さくしてください。 ずばり「点」です。

これまで,「質量mの物体」などと書いてきましたが,その正体は実は「質量mの点」だったのです!

このように質量をもつ点のことを「質点」といいます。

ここにお詫びと訂正をさせてください。

これまで黙ってきましたが,今まで勉強してきたのは実は「質点の力学」なのです。 問題文に「物体」「小球」と書いてあって,図もあたかも大きさがあるように書いてきましたが,実際には物体の大きさを暗黙のうちに無視していました。

物体が点ならば,高さと落下距離は完全に一致しますね!

お詫びといいましたが,これまで質点の話を出さなかったのはもちろんわざとです。 物理基礎の一番最初から「大きさがない物体を質点といいます」といわれても??ってなりますからね(^_^;)


大きさは本当に不要か

質点という考え方は物事をとてもシンプルにしてくれるので重宝しますが,それだけでは解決できないこともあります。

たとえばロボットを作ろうと思ったとき,ロボットの腕を持ち上げるのにどれぐらいの力が必要か計算しなくてはいけませんが,それは腕の長さによって変わってきます。

このように物体の大きさと力の作用が関連している場合,質点という考え方は役に立たず,今度こそ物体の大きさと向き合わないといけません。

前置きがめちゃくちゃ長かったですが,ここで今回のタイトルにある「剛体」が登場します。 大きさをもち,力を加えても変形しない物体のことを剛体といいます(物体の変形は複雑なので高校物理では扱えないし,本質ではありません)。

剛体が登場するのは,「物体の大きさが無視できない」ような運動を扱う場合です。

これだけ聞くと勘違いしてしまう人が出てきそうなので,ちゃんと補足しておきます。

ここでいう「大きさが無視できない」というのは,「非常に大きい」という意味ではありません!!

たとえば,地球は我々から見たら非常に大きい球体ですが,太陽のまわりの地球の公転運動は,地球を質点とみなして正しく計算することができます。 大きい物体だけど,大きさを無視してよいという大事な例です。

では「大きさが無視できない」とはどういう意味なのか。 それは,「大きさを考えないと意味がない」ということです。

これには先ほどのロボットの腕や,シーソーの運動,地球の自転などが該当します。 ロボットの腕やシーソーは点で置き換えることができません。

地球は公転を扱う場合は点で置き換えられますが,自転を扱う場合は点で置き換えられない。

さて,この3つに共通するものはなんでしょう?

答えは「回転」です。 ロボットの腕は肩関節を中心に,シーソーは支点を中心に,地球は自転軸を中心に回転します。

大きさがある物体は回転によって姿勢を変化させますが,点は回転させても点のままです。

このように,質点にしてしまうと回転の様子が分からなくなってしまいます。

「大きさを考えないと意味がない」とはまさにこのこと。 回転,それが剛体の力学の大きなテーマになります。

今回のまとめノート

次回予告

「回転」というキーワードが出てきました。 力が剛体を回転させるはたらきについて次回学習しましょう!

力のモーメント質点の運動は,はたらく力の向きと大きさで運動が決まりました。力が大きいほど加速度が大きくなるという具合です。では,回転運動はどうでしょう?...