「身近な例」で科学好きが増えない理由

私は教員免許の他に博物館の学芸員の資格も持っています。

国立科学博物館で実習させていただいたのはいい思い出 ♪

もう何年も前の話になりますが,大学の博物館学の講義の中で,「科学に興味がない人に向けた展示を考えよう」という課題が出ました。

グループワークで意見を出し合ったのですが,その大半が「身近なものを題材に使ったほうが良いんじゃないか」という意見。

 

はたして本当にそうでしょうか??

私個人の意見は真逆です。

つまり,科学に興味が無い人ほど,身近でないもののほうがウケが良いのではないか,と思っています。 

それはなぜか。以下にその理由を述べます。

 

 

身近な例で科学好きが増えない理由① 

身近なところにある応用例に感心するには,その背景にある基礎知識が必須です。

たとえば「スピードガンはドップラー効果を用いて速さを測定している」という事実にしても,物理の授業で「音源の速度を用いて聞こえる振動数を求めた経験」があってはじめて「振動数を測定すれば逆に音源の速度が求められる」ということに感動するわけです。

なるほど,その手があったか,と。

基礎が十分でないと応用は理解できないし,理解できなければおもしろくないのは当然です。

 

 

身近な例で科学好きが増えない理由②

理科が嫌いな人の決まり文句に,「こんなこと勉強して何に役に立つのか分からない!」というのがありますが,これに対して身近な例を出して,「ホラ,こんなふうに役立っているんだよ」というのはかなり押し付けがましいと感じます。

 

「ホラ,こんなふうに役立っているんだよ(だからちゃんと勉強しろよ)

と,こう言ってるように聞こえます。

かえってやる気を削いでいるような?

 

身近な例で科学好きが増えない理由③ 

「身近=見慣れている」ということですよね?

見慣れている現象を見せられても退屈なだけです。

それよりも,超伝導や超流動,亜光速で動く物体の時間の遅れなど,普段の常識からかけ離れた現象のほうが人の目を引きます。

身近ではない,極限状態のほうが面白い現象が多い。

 

身近な例のほうがいいだろうって言う人は興味ない人の気持ちになって考えてほしいんですが,「今から電子レンジの原理について説明しまーす」と,「今からタイムトラベルの話をしまーす」ではどっちが聞きたいですか?

 

 我々の目的は「理解させること」ではなくて,「興味をもってもらうこと」だということをお忘れなく。

 

身近な例で科学好きが増えない理由④ 

私は物理を専門としているので,当然物理学は大好きなわけですが,好きな理由は,

「現象が数式で表現できるということに美しさを感じるから」です。

 

何が言いたいのかというと,私自身も含め,そもそも科学好きの多くは「身近で役立っているから好き」なわけではないということです。

私は別に「物理が役立つから」好きなわけではないです。

 

教える方が「役立っているから好き」ってわけじゃないのに,なぜ役立っているところを見せれば好きになってもらえると思うのか理解できません。

教える側が「ここが面白い!」と心の底から思える部分を伝えていかなければ科学に興味がない人たちの心は動かせないと思います。

  

まとめ 

勘違いしないでほしいのですが,身近な例が無意味だと言っているのではありません!

科学が身近なところで人の役に立っているのは,科学の成果として素晴らしいことです。

しかし,興味がない人を振り向かせる手段としては弱い,ということを言いたいだけです。

「身近な例=とっつきやすい」は,それはまぁ,そのとおりだと思います。

 が,「とっつきやすい=好きになる」は成り立たない。

 

いつかこの “身近な例至上主義” を打ち砕いてやりたいなー。。。